M・M・LOコラム

第6

法教育の重要性

先日、「大学学生課と京都弁護士会との意見交換会」に参加しました。学生の詐欺被害(投資詐欺やマルチ商法、キャッチセールス等の被害)やブラック企業、ブラックバイト問題等について、情報の共有や意見交換等がなされました。
 同意見交換会の中で、ブラックバイトの事例報告を聞きながら、私はふと、自分が学生時代にしていたバイトも労基法違反だったなぁと思い至りました。

私は、学生時代の4年間、個人経営の居酒屋でホールのアルバイトをしていました。午後5時~お店が終わるまで、という勤務時間でした。お店の閉店時間は午後10時30分でしたが、そこから掃除等もありますので、いつもバイトが終わるのは午後11時から11時半頃、宴会シーズンなどは午前0時半を回ることもよくありました。
私のバイト先では、冒頭の意見交換会で報告されていたような、シフト強制や罰金等は全くありませんでした。私が、手を滑らせてお店にあったお猪口をほぼ全滅させてしまっても、罰金をとられることはありませんでしたし、バイトがシフトに穴をあけても、お店の人がカバーしていました。また、労働時間もきちんと積算されていました。
しかし、バイトの時給は常に同じで、深夜割増賃金が支払われることはありませんでした。有給という制度もありません。そして、当時の私は、そのことに、何の疑問も抱きませんでした。

夜10時以降の労働に対しては、通常より2割5分増しの賃金を支払わなければなりません。これは、アルバイトも同じです。しかし、当時の私は、そのような「割増賃金」の考え方自体、全く知りませんでした。有給に至っては、「サラリーマンの制度」であって、アルバイトには無関係としか思っていませんでした。
そして、お店の人も私と同じで、このような労働法の制度・ルールを知らなかったと思われます。
人を雇っている以上、労働法のルールを「知らなかった」は許されません。しかし、労働法のルールを知らない人は、労使の側を問わず、また学生だけでなく社会人も含めて、非常に多いのではないでしょうか。

私は、小学校から高校まで公立の学校に通っていましたが、授業で労働法のルールを教えられた記憶がありません。また、大学は法学部でしたが、労働法の授業を選択しませんでしたので、結局、一度も労働法を勉強しないまま大学を卒業しました。他学部の人であれば、尚のこと、労働法のルールを教わることもなく大学を卒業し、社会人になる人のほうが多いと思います。
雇う側・雇われる側のいずれにおいても、労働法の知識が不足したまま社会に出てしまい、その結果、労働法のルールに違反して働かせている・働いていることに気づかない、気づいても適切な処置をとれず問題が悪化する。このような悪循環の生じる最大の要因として私は、「学び」の不足があると考えています。
実際にも、平成27年に厚生労働省が行った大学生等に対するアルバイトに関する意識調査(アンケート)によれば、アルバイトで困ったことがあったときの相談先は、知人・友人が最も多く(32.0%)、次いで家族(23.6%)、インターネットで調べた(10.1%)、学校や職場の先輩(9.6%)と続き、行政機関等の専門の相談窓口に相談したことがある人の割合は1.6%にとどまっていました。
しかしこれは、学生に限ったことではなく、社会人、そして雇われる側に限らず、雇う側の人にも同じことが言えるのではないでしょうか。会社を経営されておられる方からの労働相談を受けていても、「もっと早い段階で相談に来てくれていれば…」と思うことは少なくありません。


冒頭に紹介した意見交換会においては、超党派の議員連盟が「ワークルール教育推進法案」を作成し、年内の国会提出・法案成立を目指しているとの情報提供もありました。遅まきの感は否めませんが、特に高校生・大学生に対する労働法教育の普及は、極めて大事なことです。
そして、労働法の知識・ルールを教えるのはもちろんのこと、困ったときの対処法、すなわちどこにどのように相談すれば良いのかまできちんと教えることが、何より重要だと思います。

荒牧潤一 2017.03.17