M・M・LOコラム

第4

あなたは、何がご専門の弁護士ですか?

 パーティのような席で名刺交換などをして、こちらが弁護士だと知ると「ご専門は何ですか」と聞かれることが結構多い。「いやあ、京都の弁護士はほとんどが何でも屋ですよ。街の開業医の先生と同じで、内科、外科、小児科、レントゲン科です。簡単なものなら、耳鼻咽喉科も眼科も診られるのと同じようなものです」と答えている。
 特殊な方を除いて、京都程度の経済社会では、特定の専門分野(例えば、工業所有権とか、独禁法などの経済法とか、医療過誤・薬害問題とか、行政不服を中心とした行政法とか)だけで法律事務所の経営を成り立たせることは不可能に近い。ましてや渉外事件とか、大型の倒産処理、企業再生などは東京、大阪の一極集中状態で、その余の地方でこれらの分野の「専門」と呼べるような仕事をしている弁護士は皆無に近いと思われる。
 もっとも、「専門」という意味を、「他の業務は原則としてやらない」という意味(「専門馬鹿」という揶揄言葉は、このような「専門」を前提にしている)ではなく、得意分野程度にとらえれば、かなり多くの弁護士が「自覚的には得意分野を持っている」状態といえよう。私共の事務所も、このホームページの冒頭に「企業法務・人事法務・地方行政から家事問題まで」と記載しているように、企業法務(会社の機関決定、とりわけ株主総会対策、といった問題から取引先との契約関係、内部組織問題、時として団体内の権力紛争、軽易な知的所有権や経済法問題)、労使紛争(日常的な雇用管理から、解雇等の問題まで)、地方行政にからむ広義の行政法問題、などに相当の経験を積み、そのための知識を取得し、ノウハウを得てきている。他の法律事務所の弁護士から、仕事の依頼を受けたり、助言や援助を求められるのは、当事務所ではほぼこの分野である。
 しかし、実際に私共が日常的にどの分野の仕事に時間を遣っているか、という視点でみれば、家事問題(離婚とか、相続といった家庭裁判所が扱うような問題)を含む一般民事事件(売掛金問題、借地借家問題、交通事故といった市民生活に密着した諸問題)の処理に対応している時間が、およそ7割以上に及んでいると思われる。
 私共の事務所の沿革的な創業者故前堀政幸弁護士は、刑事弁護のスペシャリストとして高名であって、おそらく一人の弁護士が生涯で得た無罪判決の数でいえば、今でも記録保持者だろうといわれているが、その前堀政幸弁護士の時代でも、先生の仕事量の過半は民事紛争であった(その歴史もあって、私共の事務所は今でも若干の刑事事件も担当しているが、年間仕事量でいえば、数パーセントであろう)。
 これが、京都の弁護士業界の「専門」についてのおよその実態ではなかろうか。
 依頼者の方からすれば、自分が抱えておられる問題の専門家(スペシャリスト)に頼みたいと思っておられるのであろう。開業医の先生でいえば、例えば「重病が隠れている可能性があるから、充分な検査とより高度な知識や技術のある専門医が診た方がよい」と考えれば、京都でいえば、2つの大学病院に紹介すれば大抵のことは足りよう。
 しかし、残念乍ら弁護士業界には、大学病院に相当するような組織がない。東京などでは既に400人を超える弁護士が在籍する法律事務所があり、大阪にもそれに近い事務所も生まれている。しかし、専門分化が進み、本当にスペシャリストが育っているか、と言えば、数人の極めて個人的に優秀な特定分野の弁護士が在籍していることは事実だが、相手方や相被告として事件を担当した経験からいえば、その大事務所の「企業法務担当」の分野のチームが全て企業法務の専門家レベルか…と言えば、首をかしげざるを得ない、と思う。
 また、自分で、専門分野とか、得意分野と広告している人が本当にそうか…も、かなりあやしい。「司法試験の受験科目で労働法を選択して合格したから、労働事件が出来ます」という人を何人も知っているが、その程度なら基礎知識が一応あるというだけで、依頼者の期待される専門家ではあるまい。
 それじゃ依頼者は、どうすれば良いのか…。少なくとも現状の京都程度の経済規模の都市では、結局、誠実で真面目な弁護士の窓口を訪ねられる他はないと考える。
 その弁護士が、誠実で一定程度のキャリアがあれば、問題の分野に実力を有する弁護士は知っている筈で(或いは直接知らなくとも、先輩等に尋ねることは可能で)、そこの意見を聞き、場合によっては依頼者を紹介し、或いは、自分も加わって共同作業に入ると思われる。
 法律事務所は、勿論当事務所においても、自分の事務所だけの能力が全てと考えてはならない。多くの専門能力を有する誠実な弁護士と常に友好的な関係を作っていること、いざという時に助け合える多くのチャンネルを確保していること、公認会計士、税理士、司法書士、測量士といった隣接分野の優秀な人材と友好的な関係を維持していること、そのような努力を続けていること、が極めて大切なことと考えなければなるまい。
 もう一つ、当事務所で大切にしていることは、相互批判である。原則として2人の弁護士が担当し、相互にチェックし、討論する。疑問が生じれば全員で討論する。月1回は必ず全員で「今の問題」の検討会を続けている。1人1人の力の不足の補充、経験する機会を増やす、いずれの方向にも、大切にしなければならないことと考えている。                              

村田敏行 2016.3.10