M・M・LOコラム

第14

弁護士のバッジの貸し借り

 

弁護士のバッジは、日本弁護士連合会会則第29条2項に「弁護士は、その職務を行う場合には、本会の制定した記章を帯用しなければならない。」とされているもので、これを受けて、「弁護士記章規則」がその形状や交付の手続等について定めている。
例えば、「弁護士記章規則」別表は、弁護士のバッジの表面のデザインについて、「十六弁のひまわり草の花の中心部に秤一台を配する。」などと定め、裏面については、「「日本弁護士連合会会員章」の文字を刻し、かつ、登録番号を刻する。」と定めている。弁護士のバッジは、弁護士が依頼者を代理して何らかの手続をとるときなどに、弁護士の本人確認のために用いられることもあるからか、デザイン等について厳密に定められているように感じる。
以下では、弁護士の職務を行う上で不可欠な弁護士のバッジについて、貸借というやや特殊な視点で検討をしてみる。

上述したが、弁護士のバッジについては、「弁護士記章規則」に様々なことが定められている。
その一つとして、「弁護士記章規則」第2条は、「連合会は、その所有する弁護士記章を弁護士に貸与する。」と定め、また、同第5条が、弁護士記章の返還義務につい
て定めていることから、弁護士のバッジの所有権は日弁連にあり、各弁護士はその貸与を受けているに過ぎないことが定められている。弁護士は、日弁連に対し、弁護士のバッジの賃料等は支払っておらず、日弁連と各弁護士の関係は、使用貸借ということになると思われる(弁護士は、日弁連に対し、会費を支払っているが、それがバッジの賃料の性質を含むと評価することは相当に困難であると考える)。

さてこのように、弁護士が弁護士のバッジを使用できる根拠が使用貸借であるとすると、弁護士は、自身が日弁連から貸与された弁護士のバッジを、他の者に譲る、例えば、使用借権を譲渡したり、転貸することが可能であろうか。感覚的に「そんなのダメに決まってる」という話になりそうであるが、その根拠を考えてみたい。
第一に、弁護士が、他の弁護士に、バッジを貸与等するケースを考える。このケースで参照すべき法令として、民法第594条2項は、「借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。」と定めている。そうすると、弁護士のバッジの場合、日弁連が、弁護士に対し、他の弁護士に貸与等することを承諾しなければそれが認められないことになりそうである。ここで、上記のとおり、「弁護士記章規則」上、各弁護士のバッジの裏面には、それぞれ、登録番号が刻印されており、日弁連が各弁護士にバッジを貸与しているのは、その弁護士だけに貸与をし、転貸等を認めない趣旨であることが明白である。したがって、弁護士が、他の弁護士に対して、バッジを貸与等することは認められないことになろう。
第二に、弁護士が、非弁護士に対し、バッジを貸与等するケースも考える。この場合、第一で述べた点で違法であることに加え、次の法律との関係も問題となるように思われる。すなわち、弁護士法第74条は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の表示又は記載をしてはならない。」と定めており、弁護士でない者が、弁護士のバッジを使用することは、弁護士法第74条違反となる可能性が高いと思われる、という問題である。非弁護士が弁護士のバッジを使用することが違法であるため、弁護士が非弁護士に対して弁護士のバッジを貸与等することも違法である、ということも言えるように思われる。

以上のように、弁護士が、他の者に弁護士のバッジを転貸等することは許されない。
ところで、弁護士記章規則第4条は、「弁護士記章の番号の提示」との表題の下、「弁護士は、その職務を行う場合に、裁判所その他の関係人の要求があるときは、その帯用する弁護士記章の番号を示さなければならない。」と定めている。分かりにくいかもしれないが、この規則で興味深いのは、弁護士会が、他の規則で「求められたら『登録番号』を示せ」という規範ではなく、弁護士記章規則で「求められたら『弁護士記章の番号』を示せ」という規範を設けているということである。
ほぼ全ての弁護士は自身の登録番号をそらんじることができるが他人の登録番号を覚えることなどはないので、弁護士の本人確認あるいは弁護士か否かの確認のためには、登録番号を尋ねれば一応の確認となる。したがって、そのような確認のためであれば、弁護士記章規則ではなく、何らかの別の規則で、「求められたら『登録番号』を示せ」と規定すればよいように思われる。そうであるのに、あえて弁護士記章規則で、帯用している弁護士記章の番号を示すことを求めているのである。
このように規定されている趣旨はよく分からないが(そもそも別段の意味などないのかもしれない。)、例えば、A弁護士が、B弁護士からバッジを借りて帯用していたという場合を想定すると、「その帯用する弁護士記章の番号」と「バッジを帯用している弁護士の登録番号」が異なることが理論上あり得る。上記のとおりこれは違法なことであるが、このケースでは、A弁護士は、「その帯用する弁護士記章の番号」すなわちB弁護士の登録番号を答えることになり、責任を負うのは貸したB弁護士だけ、という事態も生じ得ないではないように思われる。

これまで弁護士としての仕事をする上で、「どうしてもバッジを付けなければならない」という場面には遭遇していないが、上記のとおり弁護士のバッジについては帯用義務が課せられており、帯用することが望ましいことも間違いない。しかし、仮に手元に弁護士のバッジがないという場合あるいはそのような状況の弁護士からバッジを貸してほしいと言われたという場合であっても、弁護士としては、絶対に貸し借り、特に貸してはいけない、ということになりそうである。

 


 

東口良司 2021.10.18