M・M・LOコラム

第9

災害と法律問題

今年(平成30年)を振り返ると、特に自然災害が多い年だったように感じる。例えば、6月18日に発生した地震は京都の一部地域で震度5強を観測したが、あのような強い揺れを体験したのは初めてであった。9月4日に上陸した台風21号は近畿地方を中心に猛威を振るったが、家屋の屋根やベランダが吹き飛んでいく映像、大型トラックがいとも簡単に横転する映像、関西国際空港が水没している映像等は今もなお記憶に鮮明に残っている。歩くこともままならない暴風を体験したのもこれまた生まれて初めてであった。
今後も南海トラフ地震や首都直下型地震の発生が予想されているが、実際にこのような規模の災害が発生した場合、多数の人命が失われ、都市が壊滅的な打撃を受けることは間違いない。また、その裏で法律問題もかなり生じることとなるはずである。当然のこと乍ら、「災害と法律問題」は南海地域や首都圏に住んでいる方々だけに限った話ではない。特に、京都という土地は、左京区に花折断層がとおっていたり、重要文化財や木造建築物が多数あったりと、地震や台風などの影響は計り知れない。それでは、大規模な災害が発生した場合、どのような法律問題が予想され、当事者はどのようなことを考えなければならないのか。


例えば、借家が地震や台風によって損壊した場合、賃貸借契約はどうなるか。終了するか存続するかは損壊の程度が全壊か否かによって変わってくる。存続するのであれば、賃貸人は賃借人に使用収益させる義務を負うし、賃借人は賃料支払義務を負う。しかし、そもそも全壊とはどのような状態なのか、その基準も一般常識とはいえない。全壊していない場合、賃貸人は修繕義務を負うか。賃貸人が修繕義務を負う場合、少々の損壊程度なら対応できるかもしれないが、多額の修繕費用を負う場合は対応できないかもしれない。このような場合であっても依然として修繕義務を負うのか。そもそも修繕費用が多額かどうかはどのような要素で決まるのか。賃貸人ではなく賃借人が修繕義務を負うこととなっている特約付きの契約は法律上有効なのか。また、賃貸した建物が損壊したので取り壊したいが、建物内に賃借人が置いていった家財道具がある場合、それらを勝手に撤去してよいか。賃借人の側からみれば、勝手に家財道具を撤去された場合、家主に何か請求できないか。また、単に民法や借地借家法のみを考えればよいわけではなく、『大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法』(平成25年施行)が適用されれば、これも考慮する必要がある。これらの問題への対応は、法律に馴染みのない人であっても肌感覚として分かることもあるかと思う。しかし、それが法的な根拠をもって正しいのかと聞かれれば自信をもって即答できる人は多くはないだろう。


不動産の問題だけではない。混乱に乗じた消費者被害も発生するかもしれない。相場より安いと説明された建築工事費が実は相場よりもかなり高かった。物資不足で訪問販売により商品を購入し代金を支払ったが肝心の商品が送られてこない。詐欺に気付きこれらの契約を取り消したいと思ったが、そのためにはいつまでに何をどのような方法でしなければならないのか。他にも交通事故や相続問題も発生するだろう。


挙げだせばきりがないが、これまで述べてきた内容は、大規模災害が発生した場合に生じうる法律問題のほんの一部であって、実際にはもっと複雑で時間がかかる問題もある。これらの問題が生じたとき、弁護士は相談を受ければ、法律や判例はもちろんのこと、主張・立証の観点、更には費用対効果の側面も踏まえて事実関係を聴き取り、これから何をすべきかを迅速にアドバイスできなければならない。また、受任すれば相手方との交渉や裁判などにも幅広く対応できなければならない。そのためにも我々弁護士は日々の自己研鑽を怠ってはならないし、そういった使命があると考えている。


災害はいつ起こるか分からない。忘れたころにやってくるものである。災害が起きてこれから何をどうすればいいか分からず途方にくれたときは、このコラムを思い出し、まずは一度気軽に弁護士に相談してみてほしい。

 

八隅大地 2018.11.21